2015年1月16日金曜日

地球の子 part1

着ても着ても寒さが身にしみる真冬のある日
唯一の生きがいとなった白菜畑の手入れを終え、帰る道
いつもの風景、いつもの雑木林にいつもでは見ないであろうものが落ちていた
傍から見ると、丸い保育器のようなものがあった。
いや、保育器に入っているのが赤ん坊ならばその言葉も適切だっただろう。

「何が落ちているんじゃ?」
気持ちだけは若くいようとしても言葉は完全に老人になっていることを心底悲しく思う。
「これは・・・保育器かの?」
保育器・・・普段使わない言葉だけに、捻り出すのにも時間がかかる。
「ムム!中に人がいるではないか!」
極寒の中に人がいることに代わり映えのしない日常に慣れていた心が驚く。
「とても寒そうじゃ・・・早く出してやらんと・・・」
機械など今やほとんど触ることがなく、壊れた場合でも業者に頼む人間となってしまった今
どのボタンでこのガラスケースを開けることが出来るかなどわからない
「・・・やむを得まい」
結局、保育器を家まで持って帰ることにした。
いつもなら行政機関にでも連絡するところなのにそうしなかったのは、
人がいたことに驚いていたからだろうか・・・?

帰り道、おおよそ500mほどだが、よぼよぼとなった体にはとてもつらく、更には慣れない保育器を引っ張って帰っている。
しかし、無我夢中で引っ張ってるうちに見慣れた"うち"に帰ってこれた。
「どうやって中に入れたものか・・・」
そんな心配をよそに、玄関から入れることが出来た
「ふぅ」
ここ1年で一番疲れただろう
「冷えてもなるまい」
これは自分の体に言ったのかもしれない。
そう言いながらガスストーブに火をつける。

保育器を部屋の中に入れ、近すぎない位置に配置した。
「どうすればよいものか・・・」
そう言いながら保育器を物色する。

雑木林にいた時は焦っていたためかよく見ていなかったが、中に入っている子
白髪・・・いや、自分のような白髪ではなく銀髪、何なら白金髪と言ってもいいような綺麗な髪
「日本人ではないのか・・・?」
そうなると困ったものだ、今や日本語ですら不自由になっているというのに、外国語など喋れたものではない
容姿はおおよそ小学生だろうか?
外国人だから、もしかしたら幼稚園児くらいかもしれない
だとしても保育器に入っているのは不自然だ

そんなことを考えながら保育器を探っていると開閉用のボタンみたいなものがあった
何でこんなものすら気づかなかったのだろう
と言っても、あの雑木林で屈むことなど無かっただろうから見つけることは出来なかっただろう。

ここで葛藤が生じる
本当に開くべきだろうか?行政の者に渡したほうが良いのだろうか?

開いた場合はどうだろう?
身寄りが無い老人とは言え60まで働いて貯めた貯金がある。
この子の面倒を見ることは出来るだろう。

行政の者に渡した場合はどうだろう?
この子は児童養護施設に預けられるだろう。
そしてどうなるのだ?引き取りたいというものが現れればちゃんと育つことができるが・・・

そう考えたところで考えは決まった。
そしてトロくなった腕で開閉ボタンを押すのだった。

続く

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